子供はほめて伸ばす?アメリカの研究から分かる自尊心と学力の関係

勉強する子供

子供は叱るのではなく、ほめて伸ばすのが正しい育て方だ、というような考え方が、数年前から少しブームのようになっていました。

自尊心に関するいくつかの研究において、自尊心が高いと学習意欲や学力が高く、また未成年の飲酒や喫煙などの反社会的行為が少なく、さらにはその後、大人になってからの勤務成績・幸福感・健康状態までもが良好である、と分かっています。

そう考えると、自尊心は言うなれば「万能薬」のごとく作用するもののように見えます。

では、私達は「子供はほめて育て」「部下は認めてやり」さらには「自分自身も自尊心を持つようにして」、日々に臨んでいくべきなのでしょうか?

しかし実は、ここには一つの落とし穴がありました。

自尊心は万能薬たりうるか

1986年以降、アメリカ・カリフォルニア州では「社会問題の多くは個人の自尊心が低いことに起因している」として研究プロジェクトが始まりました。

これは、先述のように子供の自尊心と学力・生活態度の関係が分かったことに基づいて、子供たちの自尊心を高めてやれば学力の向上のみならず、反社会的な行動も防止できるのではないか、と考えてのことで、州知事の主導によって大規模に行われました。

しかし、残念ながらこのプロジェクトにおいて、「自尊心が高まれば子供を社会的リスクから遠ざけることができる」という有力な科学的根拠は、ほとんど示されることはなかったのです。

自尊心をむやみに高めようとするのは危険?

フロリダ州立大学の心理学者・バウマイスター教授の研究によれば、子供の自尊心を高めようとする試みについて、「子供の自尊心を高めることは、学力を高めることができないばかりでなく、逆に学力を下げてしまう恐れがある」と分かりました。

また、バージニア連邦大学のフォーサイス教授による実験では、学生を二つのグループに分け、毎週のメールで事務的な連絡を送る際に、「自尊心を高めるようなメッセージを追記したグループ」と「連絡事項のみ送ったグループ」を比較しました。

その結果、前者のグループの成績が有意に悪かったのです。

つまり、自尊心を高めてもそれによって学力が上がることはない、ということがこの実験によって明らかになったと言えるでしょう。

消防士が多く来るから火事が大きくなる?

自尊心と、学力や生活態度などの相関関係が示されたことは事実です。そこには相関関係があります。

しかし、だからといって「即ち、自尊心が高まれば学力・生活態度が向上する」とは言えません。

例えば、極端な例ですが「出動する消防士の数」と「火事の規模」については、強い相関関係があるといえるでしょう。
当たり前ですね。火事の規模が大きければ、その分多くの消防士が消火に必要になります。

では、それで以て「消防士の数が多いと火事の規模が大きくなる」というのは明らかに因果関係が逆転しています。

自尊心と学力についても同様だったのです。「自尊心が高ければ学力も高まる」のではなく、「学力が高ければ自尊心も高まる」というだけだったのです。

もともとの能力をほめると意欲が低下する

自尊心に関連して、コロンビア大学のミューラー教授らの実験では「ほめ方」に関しての比較を行いました。

子供たちを二つのグループに分けて複数回のIQテストを受けさせ、テストとテストの間に片方の子供たちにはもともとの能力をほめるようなコメントを与え、もう片方には努力をほめるようなコメントを与え、成績への影響を調べたのです。

すると、この実験において分かったのは「もともとの能力の高さをほめると、子供たちは意欲を失い成績が低下する」ということでした。

逆に、努力をほめられた子供たちは自分の努力が足りないから問題が解けないのだと考え、粘り強く取り組むことで、良い結果につながったと考えられます。

「ごほうび」のタイミング

さて、子供や部下など誰かに対して、ほめたり努力を認めたりする時はもちろんのこと、自分に対しても時に「ごほうび」は必要と言えるでしょう。

ハーバード大学のフライヤー教授の実験では、小中学生に対して「インプットに対するごほうび」と「アウトプットに対するごほうび」の効果の比較を行いました。

即ち、本を読んだり勉強をしたり、ということに対してごほうびを与えるか、結果的に良い成績を取ったらご褒美を与えるか、を比較したということです。

結果としては前者、つまり「インプットに対するごほうび」を与えられた子供のほうが、顕著に学力が向上していたのです。

どうやって学力を向上するか

一見すると、「アウトプット」つまり試験等の結果に対してごほうびを与えた方が、直接的なコミットのように思われて、効果がありそうに見えますが、何故このような結果になったのでしょうか。

「アウトプット」にごほうびを与えることを約束しても「ではどうやって成績を高めるのか」という手段のところに関わっておらず、フライヤー教授が実験後に行ったアンケートによれば、子供たちは「問題文をよく読む」や「解答を見直す」などといった、試験中の取り組み方についてばかり注意が行っていて、根本的に学力を高めるための方法にまで考えが及んでいなかったようです。

反面、「インプットに対するごほうび」を与えられた子供たちには、学力を高めるための具体的なインプットの課題が与えられていますから、それらをクリアしていくことで学力が高まったという結果になっています。

ごほうびの与え方

また、フライヤー教授の別の実験で、子供たちでなく先生たちに対しての「ごほうび」の与え方を比較したものがあります。

この実験では、先生を二つのグループに分け、片方のグループの先生には「目標を達成したらボーナスを支給」し、もう片方のグループの先生には「先にボーナスを支給し、その後に目標を達成できなければボーナスを返還」させることにしたのです。

その結果、後者のグループの先生の方が生徒の成績を高めることに成功したのです。

これは人間の「一度得たものをもう失いたくない」という心理、「損失回避が表れたものと言えるでしょう。
勿論このことは、子供や部下等の誰か、或いは自分自身への「ごほうび」についても活かすことができます。

まとめ

今回は、自尊心と学力の関係についてご紹介していきましたが、ポイントをまとめると以下の四点となります。

ポイント
  1. 自尊心をむやみに高めても学力・能力は高まらない!
  2. もともとの能力を認めるのではなく、努力を認めるべき!
  3. 結果ではなくプロセスへ「ごほうび」を!
  4. 「ごほうび」はただ与えるよりも「損失回避」を利用する!

3点目で述べたように、単に「〇〇大学に合格する!」とか「〇〇の資格を取る!」という最終ゴールを目標に漠然と努力するのではなく、そこに至るまでのプロセスを細分化して、何をすれば目標を達成できるか、ということを常に考えていかなければなりません。

そのためにも、スタディーギークで勉強法や試験対策の情報を大いにご参考にしていただければ幸いです!

(参考)
中室牧子『「学力」の経済学』

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